債権譲渡とファクタリングの違い〜ファクタリングはどんな時に利用すべき?
取引先からの売掛債権を利用して、「資金調達したい…」と考えている事業者の中には、「債権譲渡やファクタリングという名称を聞いたことがあるけれど、それぞれの違いがよく分からない…」という方もいるでしょう。
本記事では、「債権譲渡の概要」、「ファクタリングと債権譲渡の違い」、「ファクタリングの債権譲渡登記」、「ファクタリング利用時の債権譲渡禁止特約」などについて、詳しく解説していきます。
この記事で分かること
債権譲渡の概要
まず、「債権譲渡」から解説していきます。
債権譲渡とは、お金を受け取れる権利である「債権」を「内容を変えずに」「第三者」に「譲渡する」という意味があります。
債権譲渡(さいけんじょうと)とは、債権の譲渡、すなわち、債権をその同一性を変えずに債権者の意思によって他人に移転させることをいう。
出典元:債権譲渡|ウィキペディア
債権譲渡は未回収債権を譲渡する時に使われる言葉
ただし、債権譲渡は「未回収債権を第三者へ譲渡する」という意味でも使われています。
債権(または売掛債権)とは、取引先へ商品やサービスを納品した後、代金の支払日にお金を受け取る権利のことです。
また、売掛先の経営状態が悪く、債権の支払日になっても代金が支払われない(=いつ支払われるか分からない)債権のことを「未回収債権」と呼びます。
「債権譲渡」という言葉は、このような「未回収債権」を専門業者に売却する時に使われる場合が多いのです。
未回収債権は安い金額で買い取られる
なお、未回収債権は、債権譲渡の際には「非常に安い金額」で買い取られる・譲渡されるケースが多いです。
例えば1,000万円の未回収債権があったとします。売掛先の経営状態は悪く、このままでは近々倒産する可能性もあります。
このような状態の時に、1,000万円の売掛金を専門業者へ300万円で債権譲渡します。すると、利用者の会社は1,000万円の売掛債権全額の回収はできませんが、債権譲渡することで、売掛金の一部を手にすることができます。
なお、回収できない可能性が高い売掛債権ほど、低い金額で買い取られる傾向がある点には注意が必要です。
このように、債権譲渡とは「回収の見込みが低い売掛債権を専門の業者へ(売掛金の金額よりも低い価格で)売却・譲渡する取引」で、『売掛債権を処分する』というような意味合いがあります。
ファクタリングと債権譲渡は利用目的が違う
続いて、ファクタリングと債権譲渡の違いについて確認していきます。
ファクタリングは売掛債権を売却して資金調達する方法
ファクタリングとは、「売掛債権を専門業者(ファクタリング会社)へ売却して資金を調達する方法」です。
ファクタリングと債権譲渡はどちらも第三者へ売掛債権を譲渡する取引ですが、ファクタリングは未回収の可能性がある売掛債権を売却するのではなく、「回収の見込みがある売掛債権を専門業者へ売却する」取引です。
債権譲渡よりもファクタリングの方が買取価格が高い
ファクタリングは売掛金の回収の見込みがある信頼性の高い売掛債権を売却するため、専門業者(ファクタリング会社)の買取価格が高くなる傾向があります。
ファクタリング会社により異なりますが、売掛債権をファクタリング会社に売却する際には、売掛債権の1%〜20%ほどの手数料がかかる場合が多いです。
例えば、手数料10%のファクタリング会社へ1,000万円の売掛債権を売却する場合、手数料の10%が差し引かれた900万円の代金を受け取れます。
このようにファクタリングは売掛債権を高値で買い取ってもらえる可能性があります。
売掛先の信用度が低ければファクタリングの審査に落とされる
ただし、ファクタリングは売掛先や売掛債権の信用度がなければ、ファクタリング申し込み時の審査に落とされてしまう点に注意してください。
また、ファクタリングの審査では、「売掛先の経営状態」や「売掛債権の金額」に加え、「申込者の会社の経営状態」や「申込者の人柄」なども審査対象となるため、審査基準はやや高い傾向があると言えます。
ファクタリングは「資金調達」のために売掛債権を売却する金融サービス
ファクタリングで受け取れる金額は売掛債権の金額よりもやや低くなりますが、「売掛債権の支払日よりも前倒しで資金調達」が可能です。
このため、ファクタリングは、代金の入金日までの事業の運転資金が足りない…などの時に、「つなぎ資金」として便利に活用できるでしょう。
ファクタリングは、「資金調達」するために、「信用度の高い売掛債権をファクタリング会社へ売却・譲渡する」金融サービスとなっています。
ファクタリングの債権譲渡登記とは?
続いて、ファクタリング利用時に行われる「債権譲渡登記(さいけんじょうととうき)」について解説します。
債権譲渡登記は、債権譲渡と異なる意味を持つため、違いを理解しておきましょう。
債権譲渡登記は債権の所有を法的に主張するために行われる手続き
ファクタリング会社により異なるのですが、ファクタリング契約時に「債権譲渡登記」が行われるケースがあります。
債権譲渡登記の内容や仕組み
債権譲渡登記とは、「法務局で債権が第三者へ譲渡されたことを登記し、法的に証明する」手続きのことを指します。
債権譲渡登記はファクタリング会社にメリットがある
債権譲渡登記にメリットがあるのは、ファクタリング会社です。
ファクタリングの利用者が、同一の売掛債権を複数のファクタリング会社へ売却していた場合、債権譲渡登記をしていなければ、債権所有の主張ができず、取引会社間で大きなトラブルに発展してしまう可能性があります。
このため、ファクタリング会社は確実に債権の所有を主張するために、「債権譲渡登記」を行うケースがあります。
なお、債権譲渡登記が行われるファクタリング会社を利用すると、ファクタリング会社は売掛債権未回収のリスクを下げられるため、低い手数料で売掛債権を買い取ってもらえる傾向があります。
債権譲渡登記の費用が発生する可能性もある
ファクタリング会社により異なりますが、債権譲渡登記の手続きを行う司法書士に謝礼金として「5万円〜8万円」ほどの費用が別途必要になるケースもある点に注意してください。
債権譲渡登記がないファクタリング
債権譲渡登記がなく、ファクタリングが行われる場合もあります。
売掛金未回収のリスクが小さい場合は債権譲渡登記がない場合もある
例えば3社間ファクタリングの場合であれば、ファクタリング利用時に「売掛先に債権譲渡の事実が伝えられ、売掛先から直接ファクタリング会社へ入金が行われる」ため、ファクタリング会社は売掛金未回収のリスクを小さく抑えられます。
このように、売掛債権を回収できる見込みが高いケースでは、ファクタリング会社は債権譲渡登記を求めない場合もあります。
ファクタリングに影響する「債権譲渡禁止特約」
最後に、ファクタリングに影響がある「債権譲渡禁止特約」について、詳しく解説します。債権譲渡に関する項目なので、こちらも併せて確認しておきましょう。
契約書に債権譲渡禁止特約がある場合はファクタリングを使えない?
売掛債権をファクタリング会社などの第三者へ売却・譲渡する行為は法律(※)で認められています。
※民法第555条の売買契約や、民法第466条の債権の譲渡性など
しかし、売掛債権が発生する取引時の契約書において、「債権譲渡禁止特約」があるケースがあります。
債権譲渡禁止特約とは、その名称通り、第三者へ債権の譲渡を禁止することで、債権譲渡禁止特約がある場合は契約書の中に、
「甲は、本契約や個別契約から生ずる権利、義務を第三者に譲渡または請け負わせてはならない。」
というような一文が記載されています。
売掛債権に債権譲渡禁止特約があれば、原則その売掛債権をファクタリングに利用できないので注意してください。
2020年の法改正から債権譲渡禁止特約が変わる?
ただし、2020年から施行される民法改正により、債権譲渡の扱いが変わり、「債権譲渡禁止特約がある売掛債権でファクタリングしても有効として認められる」可能性があるので、今後の動向に注意しておきましょう。
経済産業省では債権譲渡禁止特約解除を促進
また、経済産業省中小企業庁では、債権譲渡禁止特約について、以下のような記載を確認できます。
・取引にかかる契約に売掛債権の譲渡を禁止する特約がついていると、中小企業者は売掛債権を担保として譲渡し、融資を受けることができません。
・国や地方公共団体では、既に、債権譲渡禁止特約の解除を進めています
・中小企業者との物品及びサービスの取引に当たり、債権譲渡禁止特約の解除にご協力下さい。
2020年の法改正、経済産業省でも債権譲渡禁止特約の解除を推進していることから、今後はより一層、売掛債権を使ったファクタリングなどの資金調達が利用しやすくなることが予測できます。
売掛債権とファクタリングは違う意味で使われるケースが多い
本記事では、「債権譲渡の概要」、「ファクタリングと債権譲渡の違い」、「ファクタリングの債権譲渡登記」、「ファクタリング利用時の債権譲渡禁止特約」などについて詳しく解説を進めてきました。
売掛債権がある事業者の方でつなぎ融資を調達したい場合はファクタリングを利用しよう
- 債権譲渡とは、債権をそのままの状態で第三者に譲渡することを指す
- 未回収債権を譲渡するときに「債権譲渡」という言葉が使われる場合が多い
- 債権とは商品やサービスを提供した後に発生する「代金を受けられる権利」のこと
- 未回収債権の譲渡は安い金額で買い取られる場合がほとんど
- 債権譲渡には「売掛金未回収の可能性がある売掛債権を専門業者へ買い取ってもらう」という意味で使われる
- ファクタリングも売掛債権を専門業者に買い取ってもらう取引
- ファクタリングは回収の見込みがある売掛債権を売却して資金調達する方法
- 売掛債権・売掛先の信用度が低い場合はファクタリングの審査に落とされる
- ファクタリングは資金調達のために売掛債権を売却する金融サービス
- ファクタリング利用時に債権譲渡登記が行われるケースがある
- 債権譲渡登記は債権の所有を法的に主張するための手続き
- 2社間ファクタリングで債権譲渡登記が行われるケースが多い
- 債権譲渡登記が行われると5万円〜の費用が発生する可能性がある点に注意
- 3社間ファクタリングは売掛先→ファクタリング会社へ入金があるため債権譲渡登記が行われない場合も多い
- 債権譲渡禁止特約とは債権を第三者に譲渡してはいけない契約
- 2020年の法改正施工からは債権譲渡禁止特約があっても売掛債権の譲渡が認められる可能性がある
- 経済産業省では債権譲渡禁止特約の解除を促進している
債権譲渡とは、「未回収の可能性がある売掛債権を専門業者に買い取ってもらう」取引のことを指します。また、売掛債権の回収の可能性が低いケースもあり、債権譲渡時には安い価格で買い取られるケースが多い傾向があります。
一方のファクタリングとは、売掛債権をファクタリング会社へ売却して支払日前に資金を得る方法です。債権譲渡と似た手続きですが、ファクタリングは「回収の可能性がある」売掛債権を売却する点が異なります。なお、ファクタリングでは、売掛債権、売掛先の信用度が低いと審査に落とされる点に注意してください。
ファクタリングは、売掛債権を売却することで非常にスピーディーに運転資金などの「つなぎ資金」を調達できる金融サービスです。売掛債権の支払日までの期間の資金が不足しそう…という方は、ぜひ本記事を参考にしながらファクタリングの利用を検討してみましょう。